ウィキメディアにおける言語多様性

2009年9月20日に,東京メディフェス2009において開催されました分科会「グローバリゼーションとオープンソース」においてウィキメディアンからパネリストとして参加いたしました。そこで,まずウィキメディアの言語多様性についてお話しいたしました。

ひとまえでスライドを作って発表をするというのはあまり経験がなく,また内容もひとつのことに特化しすぎたきらいがあり,あまりうまく伝わらなかったかも知れません。配付資料を作りませんでしたので,ここに発表資料を公開して代えようと思います。

2009年9月20日: 東京メディフェス2009 分科会 D グローバリゼーションとオープンソース 発表

何を話すか

  • ウィキメディアのコミュニティの言語多様性の様相について
    • コミュニティの多様性
    • コミュニティ間の調整
    • 言語多様性についての取り組み
  • 断りがないかぎり,データは2009年9月19日のもの

自己紹介

  • 地方大学文学部の大学生。専門は日本語学
  • 2003年2月に日本語版ウィキペディアを出発点として活動を開始。その後,ウィキクォートやウィキソースにも活動の場を広げる
  • ウィキメディア全体に関わる文書の日本語訳活動にも関わってきた
  • 最近はウィキペディア以外の活動が多い。11月にWikimedia Conference Japan 2009[1]をやります

[1] http://www.wcj2009.info/

ウィキメディア財団 (Wikimedia Foundation)

  • ウィキペディアなどのオープン・コンテントな教育的リソースを作るプロジェクトの運営組織
  • ウィキメディアの方針
    • 多様性の重視
  • 財団はプロジェクトやコミュニティを指導しない
    • プロジェクトとコミュニティの独立性を尊重
  • ひとつの運営組織と24の地域的ユーザー組織[1] (23の国/地域単位と,ひとつの地区単位)
    • その地域におけるユーザーや財団の活動の支援

[1] http://wikimediafoundation.org/wiki/Local_chapters

ウィキメディア・プロジェクトの多様性 (1)

  • プロジェクトの多様性[1]
    • ウィキペディア,ウィクショナリー,ウィキブックス,ウィキニュース,ウィキクォート,ウィキソース,ウィキヴァーシティー,ウィキスピーシーズ,ウィキメディア・コモンズ……計10プロジェクト
    • 共通点 [2]:ウィキ,コミュニティーによる運営,フリー・ライセンス,中立的な観点 (NPOV)
  • 言語の多様性
    • ウィキペディア開始当初から多言語化: 開始1か月で英独仏日など12言語版 (Ayers, Matthews, & Yates, 2008: p. 408)

[1] http://wikimediafoundation.org/wiki/ウィキメディア財団のプロジェクト
[2] http://meta.wikimedia.org/wiki/Founding_principles

ウィキメディア・プロジェクトの多様性 (2)

  • 「言語ごと」に分割
    • ウィキペディア: 271言語版 [1]
      • アイヌ語版,琉球語版,エルフ語版はない
  • 新規言語版基準 [2]
    • 言語認定の有無(ISO-639コードの有無)/必要性/プロジェクトが維持できるか (試験サイト[3]で実績)
    • 多様な観点の確保≠少数言語保護
  • その言語ではじめての百科事典になることも多い
    • cf.アフリカ,インド言語 (Lih, 2008: pp. 157−158)

[1] http://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:全言語版の統計
[2] http://meta.wikimedia.org/wiki/Meta:Language_proposal_policy
[3] http://incubator.wikimedia.org/

成立している要因

  • 自由に参加・編集できる
    • Wikiソフトウェア
      • 多くの手でひとつの構造体 (プログラム) を作りあげるためのソフトウェア (江渡, 2007: p. 26)
      • Ward Cunninghamが1994年に開発[1]
    • フリー・ライセンス
      • だれでもいつでも参加できる
  • ヴォランティア・コミュニティによる自治である
    • 現実の多様性に対応するうえで,一番コストがかからない

[1] http://c2.com/cgi/wiki?WikiWikiWeb

ウィキメディアにおける意思疎通 (1)

  • 多くの言語版,ひとつの運営組織
    • 意思疎通の手段はオンライン・英語
      • “Despite unnaturalness of all people speaking English, we can communicate in English. That is great thing.”——GeraldM, Wikimania 2007にて
    • ウィキメディアからの発表も,ほかの言語版の参加者との交流も,英語を経由する
  • 英語をしゃべるひと以外も巻き込みたい
    • →翻訳の必要性

ウィキメディアにおける意思疎通 (2)

  • 超プロジェクトレベルの文書翻訳
    • すべてがヴォランティア活動
    • コミュニケーション委員会翻訳小委員会が組織 [1]
      • ウィキメディアにおける言語の重要さ (=話者数+活溌さ) に沿って優先言語を設定
  • 優先言語ですら必ずしも翻訳は揃わない
    • 全体 (’08/09−’09/08[2])
      • 4 / 12 / 17 (13文書の公開言語数の1−3四分位数)
      • 露出するぶぶんだけは訳される (cf.サイトノーティス)
    • 日本語: 優先度3,翻訳者3〜4人,達成率約50%

[1] http://meta.wikimedia.org/wiki/Communications subcommittees/Trans
[2] http://meta.wikimedia.org/wiki/TR

ウィキメディアにおける意思疎通 (3)

  • 理事選における言語版の有権者投票率と翻訳率
    • 投票率のたかさと翻訳率に相関はない
      • →翻訳率とメタ・コミュニティ参加率は関係がない
    • 翻訳がない言語からの投票=英語を読んでいる
  • 翻訳は利用されているか?
    • 2008 →2009選挙: 投票率低下,翻訳率向上 (投票要件に変化なし)
      • 50%超翻訳言語数:49 (’09) vs. 22 (’08)
      • 有効投票数: 2940 (’09) vs. 3019 (’08)

ウィキメディアの限界

  • 地域の多様性の偏在[1]
    • 英語版の典型的参加者像[2]: 男性,技術にくわしく,高学歴で,英語を話し,白人で,15−49歳で,キリスト教国,先進国,北半球に住み,事務職または学生
    • ‘w:en:Obama’ Obama, Fukui→Barack Obama[3]
  • 言語の偏在
    • ウィキペディアの項目の64%が10言語版に偏在
    • 言語話者の多さとプロジェクトでの蓄積とが一致しない (Zachte, 2009)
      • underrepresented language (cf.ヒンドゥー語など)

[1] Glott, R., Matthews, & Yates (2009). Wikipedia survey: First results. Retrived from http://wikimediafoundation.org/wiki/File:Wikipedia_General_Survey-Overview_0.3.9.pdf
[2] http://en.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:WikiProject_Countering_systemic_bias
[3] http://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Obama_%28disambiguation%29&dir=prev&action=history

これまでの取り組み

  • 多言語化,国際化
    • 文字コード問題,ソフトウェアの翻訳 (Lih, 2008: pp. 141−145; 150−157)
      • UTF8移行,繁簡体字,キリル・ラテン文字問題……
  • Wikimania,Wikipedia Academy[1]などのプロモーション活動
    • Wikimania:フランクフルト (2005), ケンブリッジ (USA) (2006), 台北 (2007), アレクサンドリア (2008), ブエノス・アイレス (2009)
      • 2009年にはじめて英西二言語で運営

[1] http://meta.wikimedia.org/wiki/Wikipedia_Academy

まとめ

  • ウィキメディアは多様な観点の確保を目指す一環として言語多様性を重視している
  • ウィキメディアでは翻訳の提供を促進してきた
  • 翻訳によって言語のバリアーを取り除いたあとのことは手つかずである

資料 (1): プロジェクトごとの活動のひろがり (2009年7月31日)[1] (Zachte, 2009)

  • ウィキペディア: 1373.8万項目
    • 英語: 300.1万項目, 日本語: 61.1万,ドイツ語: 95.1万, スペイン語: 50.8万,フランス語: 83.6万……
      • アクセス数上位10言語版で62.6%の項目数
  • ウィクショナリー (英語版 (万)/全体 (万)): 132.9 / 601.3; ウィキブックス: 3.7 / 12.1; ウィキニュース: 1.5 / 8.5; ウィキクォート: 1.5 / 9.2;ウィキソース: 12.2 / 60.3;ウィキヴァーシティー: 1.1 / 2.5

[1] http://stats.wikimedia.org/

資料 (2): 2009年度理事選での翻訳率 (14文書)[1]

UIと完成度を合算した独自の計測法,2008年度も同様

  • 100%: 11
  • 99−76%: 21
  • 75−51%: 17
  • 50−26%: 7
  • 25−1%: 23
  • 0%: 0

計79言語 (vs. 2008: 41言語)
投票数: 2940

[1] http://meta.wikimedia.org/wiki/Board_elections/2009/Translation

資料 (3): 2008年度理事選での翻訳率 (8文書)[1]と投票率 [2, 3](1)

有権者数 : < 21801人 (> 600 eds (’08/3/1時点),> 50 eds (1/1−3/29),等)
アカウントがある言語: 184/272 (多言語プロジェクト74票ふくむ*)
* meta-wiki, oldwikisourceなどを含む。言語特定不可能
有効投票数: 3019
投票が >10の言語: 27言語 (97%)
翻訳率0%で投票があった投票数と言語数: 77/35

  • 翻訳率 100% (言語 (投票率/全票にしめる割合)): 14
    • インドネシア語 29.4/0.5,セルビア語 20.6/0.5,ロシア語 18.6/3.9,ギリシア語 17.0/0.3,中国語 17.2/2.6, ドイツ語 15.2/13.5, 英語 13.4/43.2, フランス語12.5/6.2,スペイン語 11.7/3.5,チェコ語10.5/0.6,ポーランド語10.3/2.3,カタロニア語9.7/0.4,イタリア語8.6/2.6,ポルトガル語7.3/1.0

[1] http://meta.wikimedia.org/wiki/Board_elections/2008/Translation
[2] http://meta.wikimedia.org/wiki/Board_elections/2008/Votes/en
[3] http://meta.wikimedia.org/wiki/User:Pathoschild/Board_elections_2008_statistics

資料 (4): 2008年度理事選での翻訳率と投票率 (2)

  • 翻訳率 >90%: 2
    • フィンランド語18.5/1.5,日本語 2.9/0.9
  • 翻訳率 >70%: 5
    • オランダ語16.9/3.0,韓国語 16.5/0.6,アラビア語15.2/0.5, ウクライナ語13.9/0.4,スウェーデン語9.0/1.0
  • 翻訳率 >60%: 1
    • ヘブライ語41.6/3.9
  • 翻訳率 20>, >10%: 1
    • ハンガリー語6.9/0.5
  • 翻訳率0%: 3
    • ブルガリア語 17.1/0.4,トルコ語 8.5/0.4,ノルウェー語5.5/0.3

資料 (5): 現在の取り組み

  • ソフトウェアの改善
    • 使用画面の再設計[1]:使いにくさの除去で参加しやすく
    • FlaggedRev:ドイツ発,非登録者に表示する版を選択
  • ウィキメディア・プロジェクトの利用提携 (Ayers, Matthews, & Yates, 2008: p. 461)
    • 教育支援: Open Education Resorces, SOS Children
    • コンテンツ拡大:ドイツ公文書館の写真提供[2]
  • コンテンツの充実が必要
    • 英語版,ドイツ語版などに偏りがち

[1] http://usability.wikimedia.org/
[2] “Wikipedia receives German pictorial history.” (2008, Dec. 16). Deutsche Welle. http://www.dwworld.de/dw/article/0,,3851534,00.html

文献

  • Ayers, P., Matthews, C., & Yates, B. (2008). How Wikipedia works:And how you can be a part of it. San Francisco: No Starch Press.
  • 江渡浩一郎 (2007).「Wikiの本質とは何か」守岡知彦 (編),『人文情報学シンポジウム: キャラクター・データベース・共同行為: 報告書』(pp. 19−28). 京都: 京都大学21世紀COEプログラム東アジア世界の人文情報学研究教育拠点
  • Lih,A. (2008). The Wikipedia revolution: How a bunch of nobodies created the world’s greatest encyclopedia. NewYork: Hyperion.
  • 吉沢英明 (2006).『ウィキペディア完全活用ガイド』マックス
  • Zachte, E. (2009). “Wikimedia in numbers.” In proceedings of Wikimania 2009. Retrived from http://wikimania2009.wikimedia.org/wiki/Proceedings:144

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